|
日本企業の危機管理を問う
首藤信彦氏
衆議院議員・東海大学教授
最近、国際的にテロがげきかするなか、製造現場での火災事故や最新鋭ビルの回転ドア事故、トラック部品のなどの製品欠陥、会計不正・談合など不祥事が頻発し、内外で企業の危機管理のあり方が問い直されている。米エンロンやアンダーセンが、日本では雪印食品が手痛い不祥事が原因で破綻したことは記憶に新しい。この種の問題に詳しい首藤信彦氏にその背景と対応を聞いた。
―なぜ今、危機管理徹底の緊急性が叫ばれるのか。そして、日本の製造現場で頻発している大事故あるいは度重なる不祥事の背景は何か。
緊急性とは、以下の事実にみるように、日本企業は欧米に比べ意識・対応が立ち遅れているため、後がないとの認識が必要との意味だ。 @日本では危機意識が低いため、同じ過ちを繰り返す。
A危機管理意識の欠如は、企業のみならず、政府機関、業界団体などすべての組織、社会に共通するため、「失われた10年」からの日本再生への足かせとなっている。
Bこれが改善されないと、経済グローバル化進展の中、中期的に国際競争に勝ち残っていけない。
次に、事故・不祥事の背景だが、不況が長期化すると企業は経費削減に追い込まれる。日本の場合は、重点的ではなく全体的に導くコストカットをしがちだ。特に、非生産的、あるいは利益を生まないと考えられるところ、例えば本テーマのセキュリティー関係などからカットしていく。
そのため、不況が長期化する間に、日本企業の安全対策や危機管理はぼろぼろになっているから、事故は起こるべくして起きているのではないか。
一概には言えないが、日本とは対照的に、欧米企業では危機管理(セキュリティー)対策は景気に左右されないことが大前提だ。経営が苦しい時ほど、しっかりやらねばとの原点を守ろうとしている。
さらに、その奥を探ってみると、グローバル競争激化のもと、日本企業の経営システム自体が厳しい環境変化に対応できず、それが危機管理に影を落としていると考えられる。 すなわち、終身雇用や年功序列、技術伝承、企業と社員の一体感など、日本企業を支えてきた主要システムが崩壊し、中間管理職の若手育成意欲の減退、若者のモラル低下など職場全体の士気低下が企業パフォーマンスの低下につながっている。
企業は、これまで公共セクターに依存し、政府の基準にさえ合わせていればよかった。これからは消費者を向いた経営、世界の文化に対して自社の社会的意義を問い直す時代に入ったと言える。
―こうした経営の危機管理は責任を含めトップマネジメントに属するが、実際にうまく機能しないのはなぜか。
経営とは、先を見越してかじを切り、責任をとるということだ。危機管理とはその経営の頂点にあるべきもので、まさにトップマネジメントと言える。欧米主要企業は既に80年代に、危機管理重役を配置するなど、危機管理をトップマネジメントとして、そのシステムを築き上げた。
ところが、日本の現状を見ると、一部の先進企業を除き、一般に経営陣が危機管理の重要性を十分理解せず、それに必要な経営資源の投入を行わなかった傾向がある。これまでも、何度か事件が発生するたびに危機管理の必要が叫ばれ、形だけの組織を作った。ただ、のど元過ぎればすぐ忘れ、景気後退があれば真っ先に整理対象となってきたのが実情だ。
危機管理にはこれを支える文化(発送)が必要だが、日本ではそれがない。逆に現場対応、末端にやらせるくらいの低い意識、甘い体質があるのではないか。
また、企業を取り巻く日本の特殊な環境として、欧米に比べ家父長的な監督官庁、おとなしい消費者や労働組合など、企業の経営責任を「天災」にごまかしてしまうシステムあるいは文化が存在することを見逃してはならないだろう。
このような背景から、日本では一般にまず肝心の責任を取る人が不明確だ。この結果、初期情報が複数部署に拡散し、重要な早期の警報や対応が遅れてしまう。危機管理は超法規的行動を迫られる。このため、トップマネジメントに直結する責任者が意を決して実行しなければならないのに、伝統的な日本の企業をめぐるシステムあるいは文化が障害となって、最も重要な初期対応がしっかりできないのではないか。
―一連の事故や不祥事を回避するため、さまざまな対応策が試みられたが、参考となる事例はあるか。
タイプ別には以下の3事例が挙げられよう。
<参天製薬>目薬への異物混入への危機対応
2000年6月、参天製薬が見せた迅速、的確な危機対応が同じころの食品メーカーなど他社のまずい対応との比較で、よく紹介される。
同社は、目薬への異物混入による脅迫状を、社長の指揮のもといち早くマスコミに公開、対応チームを立ち上げた。事故発生からわずか4日間で約7万の薬局・薬店の店頭から250万個前後の製品の撤去を完了し、迅速な解決につないだといわれる。この背景には、長期化し未解決に終わったグリコ・森永事件を連想し、「短期的な利益よりも消費者の安全を優先させる」との明確な価値基準に基づき、早期対応を心がけたトップの決断と行動があった。
<野村證券>不祥事への対応
次に、不祥事への対応では、日本では90年代に損失補てんや総会屋事件と2度の重傷を負い、土壇場に追い込まれた野村證券が、交代したトップの決断と実行で、危機を乗り切った事例がある。
当時、トップを託された氏家社長は、3度目が来たら野村はつぶれるとの強い危機感を持ち、営業力が落ちようが、法令順守(コンプラインス)を最優先する経営方針を貫いたという。
それまでのノルマ営業から、顧客の財産を増やす資産管理営業への大転換を図った。さらに問題発生が経営レベルまで漏れなく伝わるよう、97年秋の外部弁護士も含めた内部管理委員会とのコンプライアンス・ホットラインの設置などを通じて、ようやく組織・意識改革を実現したとされる。
<デュポン(日本)>事故安全対策
危機物の化学品の製造現場での事故防止対策のモデルとして、一歩踏み込んでベテランにまで注意を喚起する徹底した安全対策と毎週それを点数化して評価する管理システムで無事故更新を続けるデュポンの体制は注目に値しよう。
これは一般的な話だが、欧米企業の危機管理マニュアルを見ると、人間の実際の心理までを読んで具体的な指示がされ、間違いを犯さぬよう工夫されていることは教訓となる。
―ソニー、イオンなどのように、欧州で標準化しつつあるCSR(企業の社会的責任)など社会貢献、法令順守などを組み込んだ経営方針への転換も今後必要ではないか。
これまでの日本企業の国際的な対応をみると、例えばココム違反への対応、あるいは国際標準化機構(ISO)のルール化などでは、法律や制度(ISO9000)などで形式上、技術上はクリアしている。ただ、その根底にあるフィロソフィーが欠落しているケースが目立つように思う。
CSRに関しては、欧州でISOの国際基準にする動きが表面化したことから、日本の産業界での関心が高まった。日本経団連でも2月中旬、これを政府ベースでなく民主導推進すべき緊急アピールを発表するなど動き始めている。
先行する欧米で年金基金によるCSR高評価企業への基金の重点運用が加速される中、3月中旬ようやく日本でも厚生年金連合会が、企業統治が優れた企業への投資ファンドの運用を始めると報道された。今やCSR重視の経営は国内でも無視できなくなってきたと言えよう。
企業活動がグローバル化した現在、日本企業としては、訴訟小国で、甘い日本社会での常識は海外では通用しないと考える法が賢明ではないか。
(聞き手:足立
正紀/編集アドバイザー)
|